「指名検索が減っている」と気づいたとき、何から調べるか
Search Consoleを開いて、自社名の表示回数が右肩下がりになっていた。そんな経験はないだろうか。
指名検索(ブランド検索)は、社名やサービス名で直接検索されること。CVR(コンバージョン率)が一般キーワードの3〜12倍とも言われ、事業の安定成長に直結する指標だ。
ただ、焦って「SNSを増やそう」「動画を出そう」と施策に飛びつく前に、やるべきことがある。データを並べて、原因を特定することだ。
この記事では、指名検索数が1年で53%減少したBtoCサービス業のクライアントの事例をもとに、原因をデータから特定し対策を打つまでの分析プロセスを5ステップで解説する。使うツールはSearch ConsoleとGoogle Adsの管理画面だけだ。
実例:1年で指名検索が53%減少したBtoCサービス業のクライアント
今回の事例は、Google広告を積極的に運用していたBtoC専門サービス企業。年間の広告予算は数千万円規模で、指名検索からの問い合わせも主要な集客チャネルの一つだった。
ある日、月次レポートを見ていて異変に気づいた。指名検索の月間表示回数が、前年同月比で半分以下に落ちている。
「なぜ減ったのか」を明らかにするために、以下の5ステップで分析を進めた。
Step 1:Search Consoleで月別推移を可視化する
多くの企業が「指名検索が減っている」と感じたとき、最初に取る行動は施策を探すことだ。SNSを強化しよう、動画を出そう、PR記事を増やそう。しかし、原因を特定せずに打つ施策は、暗闇の中で矢を放つのに等しい。まず必要なのは、数字を時系列で並べて「いつ、どのくらい変化したか」を客観的に把握することだ。変化のタイミングが分かれば、その時期に何が起きたかを遡れる。逆に言えば、この最初の一歩を省略した分析は、すべてが推測の上に積み上がることになる。
最初にやったのは、Search Consoleで指名キーワードの月別推移を12ヶ月分並べることだ。企業名を含むキーワードでフィルタリングし、月ごとの表示回数とクリック数を整理した。
2025年3月の表示回数3,833回(クリック1,120回)をピークに、4月には2,928回へ急落。その後5月〜10月は2,500〜2,700回前後で横ばいに推移したが、11月に2,031回へ再び大きく落ち込んだ。12月には1,684回まで下がり、2026年1月は1,872回、2月は1,806回(クリック593回)で推移。結果として、3月の3,833回から翌2月の1,806回まで53%減少した。
年間合計で表示29,661回、クリック8,528回。3月から翌2月で表示回数は53%減少している。
グラフにすると、大きく2段階で落ちていることがわかる。
まず2025年3月から4月にかけて、3,833回から2,928回へと第1の急落が起きている。そして2025年10月から11月にかけて、2,518回から2,031回へと第2の急落が発生した。緩やかな下降トレンドの中に、明確な段差が2箇所ある。この「いつ落ちたか」が、原因特定の最大のヒントになる。
Step 2:どのキーワードが減っているかを分解する
「指名検索が減っている」という事実だけでは、打ち手は見えない。全体の数字は症状であり、病名ではないからだ。重要なのは、どの種類のキーワードが減っているかを見極めることだ。キーワードの「性質」を読み解けるかどうかで、そこから先の仮説の精度がまるで変わってくる。同じ指名検索でも「企業名+怪しい」と「企業名+評判」では、検索する人の背景がまったく異なる。この違いに気づけなければ、的外れな施策に時間と予算を費やすことになる。
全体の推移だけでは原因はわからない。次にやるべきは、指名キーワードの内訳を分解することだ。
企業名を含むキーワードを個別に確認したところ、興味深いパターンが浮かび上がった。
激減しているキーワード
- 企業名+「怪しい」:月456回 → 月7回(-98%)
- 企業名+「費用」:月246回 → 月22回(-91%)
- 企業名(単体):月2,042回 → 月1,480回(-28%)
逆に増えているキーワード
企業名+「評判」:月5回 → 月82回(+1,540%)
「怪しい」は広告で初めて企業名を知った人が「本当に大丈夫か?」と調べるときに使う言葉だ。このキーワードの減少は「広告経由の新規認知が減った」ことを示唆している。
「費用」は検討段階のキーワード。広告で興味を持った人が次に調べるワードだから、同じ文脈で説明がつく。一方、「評判」が増えているのは、口コミや比較サイトの影響で広告以外のチャネルから認知が入っている可能性を示している。
キーワードの「性質」を理解して内訳を見ると、減少の原因に仮説が立てられる。
Step 3:Google Adsの出稿データと重ねて原因を探る
仮説を立てたら、次は別のデータソースで裏付けを取る。ここが分析の質を決定的に分けるポイントだ。Search Consoleだけを見ていると「検索が減った」という事実しかわからない。しかしGoogle Adsのデータを重ねた瞬間、「なぜ減ったのか」が浮かび上がる。異なるデータソースをクロスさせて因果を推定する力は、単一ツールの操作スキルとは次元の異なる能力だ。この思考法を持っているかどうかで、同じデータを見ても到達する結論はまったく違ったものになる。
Step 2で「広告経由の新規認知が減ったのでは」という仮説が立った。次はGoogle Adsのデータで裏付けを取る。
広告の月別表示回数を確認する
全キャンペーン合計の広告表示回数は、2025年3月の約96万回から4月には約37万回へ急減していた。
3月→4月で広告表示回数が61%減少。Search Consoleの指名検索が落ちた第1の急落と完全に一致する。原因は、4月にキャンペーン構成を再編した際、旧キャンペーン群の大量配信がストップしたことだった。
ブランドキャンペーンの推移を確認する
さらに詳しく見ると、自社名を含むブランドキャンペーンの表示回数にも大きな変動があった。
ブランドキャンペーンの表示回数は、2025年8月の41,323回から11月には7,401回まで落ち込んでいた。
8月→11月で76%減少。Search Consoleの第2の急落とも一致する。10月下旬に、指名キーワードのインテントマッチに割り当てていた月間約230万円の予算を別の疾患系キャンペーンにシフトしていた。
このインテントマッチの配信は、指名キーワードだけでなく一般キーワードにも広く表示されていた。つまり、指名キーワード以外の広告配信による「副次的な認知効果」が消失したことが、指名検索減少の大きな要因だったと考えられる。
予算シフト先の効果も検証する
「予算をシフトした先のキャンペーンは成果が出ているのか?」も確認した。注意点として、このクライアントは11月にコンバージョンの計測方法を「クリック起点」から「問い合わせ起点」に変更していた。変更前後の数字を単純比較してはいけない。
11月以降(問い合わせ起点)のデータだけで比較すると:
11月時点では疾患系CPA ¥50,184、一般系CPA ¥51,098とほぼ同水準だった。12月は年末年始の季節要因で両方とも悪化。1月は疾患系が¥128,529、一般系が¥79,341まで上昇したが、2月には疾患系¥71,449、一般系¥73,260と両キャンペーンとも7万円台に収束した。
2月には両キャンペーンとも7万円台に収束しており、予算シフト先のキャンペーン自体は一定の成果を出していた。つまり、「予算シフト先は機能しているが、副次的に失われた認知効果(指名検索)は別途カバーする必要がある」という結論になる。
Step 4:市場全体のトレンドと切り分ける
自社のデータだけを見ていると、すべての変動が「自社のせい」に見えてしまう。しかし実際には、業界全体の検索需要が縮小しているだけかもしれないし、逆に市場は伸びているのに自社だけ取り残されているのかもしれない。この切り分けができなければ、「市場の潮流に逆らう無駄な投資」か「本来打つべき手を打たない機会損失」のどちらかに陥る。市場全体の文脈の中で自社の変動を位置づける視点は、データ分析の中でも特に経験が問われる部分だ。
自社だけの問題なのか、市場全体の問題なのかの切り分けも重要だ。
この業界の一般キーワード(業界名や関連技術名など)の検索ボリュームも調べたところ、以下の結果だった。
ピーク時比で、一般キーワード群は-52%、指名キーワード群は-44%。業界全体の検索需要がほぼ半減していた。
業界全体の検索需要がほぼ半減している。つまり、指名検索の減少には2つの要因が重なっていた。ひとつは市場全体の検索需要が縮小しているというベースラインの低下。もうひとつは広告配信の変更によって副次的な認知効果が消失したという自社固有の要因だ。市場トレンドを無視して「うちの指名検索が半減した」とだけ見ると対策を見誤る。逆に「市場全体が落ちているから仕方ない」で済ませると、自社固有の改善余地を見逃す。両方の視点を持つことが大事だ。
Step 5:対策の優先順位をつける
原因を特定できたとしても、それだけでは事業は動かない。分析の価値は、そこから導き出される「次の一手」の精度で決まる。ここで重要なのは、すべての施策を同時に走らせるのではなく、即効性と中長期効果の2軸で優先順位をつけることだ。リソースが限られる中小企業ほど、この優先順位の判断が成果を左右する。
原因が特定できたら、対策の優先順位を決める。「即効性」と「中長期効果」の2軸で整理した。
即効性が高い施策
1. ブランドキャンペーンの表示回復
最もシンプルで即効性が高いのは、減らしたブランドキャンペーンの予算を一部戻すこと。広告表示は認知の入り口として機能していたことがデータで示されている。意図せず失った効果を取り戻す、という位置づけだ。
2. SNS広告のスケールアップ
このクライアントの場合、動画広告プラットフォーム(YouTube広告やP-MAX)は業界特有の審査基準で出稿できなかった。そのため、SNS広告が認知拡大の主戦場になる。リスティング広告は「すでに検索している人」にしかリーチできないため、潜在層へのリーチにはSNS広告が必要だ。
中長期で効く施策
3. SNSオーガニック運用
広告費をかけずに認知を広げるには自然投稿が有効。効果が出るまでに3〜6ヶ月はかかるが、広告と並行して仕込んでおく施策だ。
4. Googleビジネスプロフィール(GBP)の強化
地域ビジネスの場合、GBPの最適化は指名検索と密接に関わる。口コミの充実、投稿の定期更新、写真の追加など地道な運用が検索での視認性を高める。
5. コンテンツSEO
自社の専門領域に関するコンテンツを継続的に発信することで、「この分野ならこの会社」という認知を築ける。指名検索の増加は、コンテンツの質と量の蓄積の結果として現れる。
分析で陥りやすい3つの落とし穴
落とし穴1:コンバージョン計測の変更を見落とす
途中でコンバージョンの計測方法が変わっていた場合、変更前後の数字を単純に比較すると「CPAが19倍に悪化した」ように見えることがある。実際は計測の「ものさし」が変わっただけ。数字が急変したときは、まず計測方法の変更がなかったかを確認する癖をつけたい。
落とし穴2:季節要因を無視する
12月〜1月のCPA悪化を見て「キャンペーンが破綻した」と判断しそうになった。だが全キャンペーンが同様に悪化しており、年末年始の季節要因だった。特定の月だけ数字が悪いときは、前年同月との比較や全キャンペーン横断での傾向確認で季節性を切り分ける必要がある。
落とし穴3:相関と因果を混同する
「広告表示が減った時期」と「指名検索が落ちた時期」が一致しても、100%因果関係があるとは断言できない。この事例では、タイミングの一致に加えて「減っているキーワードの性質」(広告認知由来のキーワード)も裏付けになったため、因果関係が強いと判断した。複数の証拠を重ねて判断することが重要だ。
よくある質問
Q. 指名検索数はどこで確認できますか?
A. Google Search Consoleの「検索パフォーマンス」で確認できる。クエリフィルタに自社名を入力して、表示回数とクリック数を月別で見るのが基本。Google広告のキーワードプランナーやGoogleトレンドでも大まかな傾向は掴める。
Q. 指名検索の減少は、SEOの順位にも影響しますか?
A. 直接的な順位変動要因ではないが、間接的には影響する。指名検索が多いサイトはGoogleからの信頼性評価(E-E-A-T)が高まりやすく、長期的にはオーガニック流入全体に影響が出る可能性がある。
Q. 広告を止めたら指名検索が減るのは当たり前では?
A. 「指名キーワードへの広告出稿」を止めた場合は、広告経由のクリックが減るだけで自然検索での表示回数自体は変わらない。今回のケースで減ったのは、一般キーワードへの広告配信(インテントマッチ)による「副次的な認知効果」が消えたことが原因だ。
Q. 市場全体のトレンドはどうやって調べますか?
A. Googleトレンドで業界の主要キーワードの推移を確認するのが手軽。Search Consoleで一般キーワード群の表示回数推移も並べて比較すれば、自社固有の問題がどれくらいの割合かが見えてくる。
Q. 中小企業でも同じ分析手法は使えますか?
A. 使える。Search ConsoleもGoogle Adsの管理画面も無料で見られるツールだ。月間数百回レベルの指名検索でも、変動パターンは同じように分析できる。
Q. 指名検索数の「正常な水準」はどれくらいですか?
A. 業界や企業規模によって大きく異なるため、絶対的な基準値はない。自社のベースラインを把握し、前年同月比で20%以上の減少が続いた場合は要因を調べる価値がある。
まとめ:データを並べれば、原因は見えてくる
指名検索の減少に直面したとき、「とりあえず認知施策を増やそう」と動く前に、まずデータを並べて原因を特定すること。これが最も効率的な打ち手につながる。
- Search Consoleで月別推移を出し、変化点を特定する
- キーワードの内訳を分解して、減少の性質を理解する
- Google Adsのデータを重ねて、広告変更との相関を確認する
- 市場全体のトレンドと自社固有の要因を切り分ける
- 即効性と中長期の2軸で対策の優先順位をつける
この手順は業種や企業規模を問わず使える。Search ConsoleとGoogle Adsの管理画面があれば、今日からでも始められる。
指名検索は「ブランドの体温」のようなものだ。下がっているなら、原因を突き止めて手を打つ。データがあれば、それは十分にできる。
ただし、ツールの使い方を知っていることと、データを正しく読み解けることは別の話だ。Search Consoleの画面は誰でも開ける。しかし、キーワードの性質から検索者の心理を推測し、複数のデータソースをクロスさせて因果を見極め、市場トレンドと自社固有の要因を切り分ける。この一連の思考プロセスには、場数を踏んだ経験が要る。自社だけでこの分析を回すのが難しいと感じたなら、データに強いパートナーと組むことを検討してほしい。




