Lステップの代替を探し始めた理由
LINE公式アカウントでステップ配信やセグメント配信をやろうとすると、ほぼ一択で「Lステップ」にたどり着く。実際、筆者もとある会社のLINE運用でLステップを使っている。
ただ、使い続けるなかで2つの不満が出てきた。
1つ目はコスト。 Lステップの月額は最低でも約2万円。年間にすると24万円になる。アカウントが増えれば、その分だけ追加契約が必要だ。中小規模の事業者にとって、この固定費はじわじわ効いてくる。正直なところ、「この金額に見合った使い方ができているか?」と自問するたび、答えに詰まることが増えていた。
2つ目はAPIが公開されていないこと。 自社のシステムと連携したい、AIで配信内容を自動生成したい。そう思っても、LステップにはパブリックAPI(外部のプログラムからデータをやり取りするための窓口)がない。管理画面からの手作業に依存する部分が多く、「手で設定する」以外の選択肢がないのだ。あなたも、管理画面をポチポチしながら「これ、自動化できないのかな」と思ったことはないだろうか。
この2つの課題を解決できるツールはないか。そう思ってリサーチしていたところ、GitHub上で「LINE Harness」というOSS(オープンソースソフトウェア。ソースコードが公開されていて無料で使える)を見つけた。
LINE Harnessとは何か
LINE Harnessは、LINE公式アカウント向けのオープンソースCRM(顧客管理ツール)だ。MITライセンスで公開されている。
一言でいうと「Lステップの機能をCloudflare Workers(サーバーを持たずにプログラムを動かせるサービス)上に無料で構築できるツール」になる。正直、最初は半信半疑だった。無料で本当にLステップの代わりが務まるのか?と。
まずは何ができるかを説明しよう。
配信まわりでは、ステップ配信(分単位の遅延制御や条件分岐にも対応している)とブロードキャスト配信(全員・タグ別・セグメント別の送り分け、予約配信も可能)が揃っている。Lステップでよく使う機能は、ほぼカバーされていると思っていい。
ユーザー管理の面では、リッチメニューの切替(ユーザーごと・タグごとに出し分けられる)、LIFF(LINEアプリ内で動くミニアプリ)を使ったフォーム機能、行動ベースのスコアリング(リードスコアの自動計算)が備わっている。フォームがLINE内で完結するのは、ユーザー体験としてもかなり良い。
自動化の仕組みとしては、IF-THENルール(7種のトリガーと6種のアクションを組み合わせられる)があり、さらにBAN検知と自動移行の機能まで標準搭載されている。BAN対策がデフォルトで入っているのは、LINE運用をやっている身としては地味にありがたい。マルチアカウント対応も、別契約なしで使える。
Lステップとの比較表を載せておく。数字で見ると違いが際立つ。
| 項目 | Lステップ | LINE Harness |
|---|---|---|
| 月額 | 約2万円〜 | 0円(Cloudflare無料枠) |
| API公開 | なし | 全機能公開(100+エンドポイント) |
| AI対応 | なし | Claude Code連携(MCP対応) |
| ソースコード | 非公開 | MIT |
| マルチアカウント | 別契約 | 標準搭載 |
| BAN対策 | なし | 検知+自動移行 |
技術スタックについても触れておく。APIとWebhook(LINEからの通知を受け取る仕組み)はCloudflare Workers + Honoで動いている。データベースはCloudflare D1(CloudflareのSQLiteベースのデータベース)で、テーブル数は42。管理画面はNext.js 15(App Router)、LIFF部分はVite + TypeScriptで構築されている。定期実行にはWorkers Cron Triggers(5分間隔)を使っている。
デプロイ手順:7ステップで動くところまで
ここからは、実際にデプロイした手順を紹介する。前提として、Node.js 20以上、pnpm(パッケージマネージャー。npmの高速版)9以上、Cloudflareアカウント、LINE Developersアカウントが必要になる。
ステップ1: LINE Developersでチャネル作成
LINE Developers Consoleでプロバイダーを作成し、Messaging APIチャネルを設定する。Channel SecretとChannel Access Tokenを控えておく。
ここだけは注意してほしいのだが、テスト用であれば新規のLINE公式アカウントを作成して試すのがおすすめだ。既存アカウントのWebhookを切り替えるのは、動作確認が終わってからのほうが安全。筆者も既存アカウントとは別に、テスト用アカウントを用意してから進めた。
ステップ2: リポジトリをクローン
git clone https://github.com/Shudesu/line-harness-oss.git
cd line-harness-oss
pnpm install
ステップ3: D1データベースを作成
npx wrangler d1 create line-crm
出力される database_id を apps/worker/wrangler.toml に記入する。
npx wrangler d1 execute line-crm --file=packages/db/schema.sql
これで42テーブル・約80クエリのスキーマが適用される。コマンド2つでデータベースの準備が終わるのは、Cloudflare D1の手軽さを実感する瞬間だ。
ステップ4: シークレット設定
npx wrangler secret put LINE_CHANNEL_SECRET
npx wrangler secret put LINE_CHANNEL_ACCESS_TOKEN
npx wrangler secret put API_KEY
API_KEYは自分で任意の文字列を設定する。管理画面やAPIアクセス時の認証に使うものだ。
ステップ5: ビルドとデプロイ
pnpm build
pnpm deploy:worker
デプロイが成功すると、以下のようなURLが発行される。
https://line-harness.your-subdomain.workers.dev
これが動いた瞬間は、素直に嬉しかった。「本当に無料で動くんだ」という実感が湧いた。
ステップ6: Webhook URL設定
LINE Developers Console の Messaging API 設定画面で、Webhook URLに以下を入力する。
https://line-harness.your-subdomain.workers.dev/webhook
「Webhookの利用」をオンにし、「検証」ボタンで疎通確認する。
ステップ7: 動作確認
curl -H "Authorization: Bearer YOUR_API_KEY" \
https://line-harness.your-subdomain.workers.dev/api/friends/count
レスポンスが返ってくれば成功だ。
ハマったポイント3選
スムーズにいったように書いたが、実際にはいくつかハマった。同じ轍を踏まないための参考にしてほしい。
1. Cloudflareアカウント認証の罠
wrangler コマンドを実行したら、意図しない別のCloudflareアカウントに紐づいてしまった。ブラウザに複数アカウントでログインしていたのが原因だ。ここで30分ほどハマった。「デプロイしたはずなのにダッシュボードに出てこない」という状態になり、原因に気づくまでけっこう焦った。
対処法としては、ブラウザ認証ではなくAPIトークン方式に切り替えるのが確実。Cloudflareダッシュボードからトークンを発行し、CLOUDFLARE_API_TOKEN 環境変数にセットすればいい。複数のCloudflareアカウントを持っている人は、最初からこちらの方法を使うことをおすすめする。
2. ワークスペースパッケージのビルド順序
LINE Harnessはpnpmワークスペース構成になっている。apps/worker が packages/db や packages/shared に依存しているため、いきなり wrangler deploy しようとするとビルドエラーになる。
先に pnpm build でワークスペース全体をビルドしてから pnpm deploy:worker を実行する。この順序を守れば問題ない。せっかちにデプロイコマンドだけ叩くと、筆者のように無駄な時間を過ごすことになる。
3. pnpm deployコマンドの衝突
pnpmには pnpm deploy というネイティブコマンド(pnpm自体が持っている機能)が存在する。一方、LINE Harnessの package.json にも deploy スクリプトが定義されている。この2つが衝突してエラーになることがある。
pnpm run deploy:worker のように、スクリプト名を明示的に指定して実行すれば回避できる。地味なポイントだが、知らないと原因の特定に時間がかかる類のトラブルだ。
Claude Codeから全操作可能:MCP連携
個人的に最も価値を感じたのが、MCP(AIツールが外部サービスと連携するための仕組み)サーバーの存在だ。
LINE Harnessには @line-harness/mcp-server というパッケージが含まれている。これをClaude CodeのMCP設定に追加すると、友だち一覧の取得、タグの作成や付与、ステップ配信シナリオの作成、ブロードキャストの予約、自動化ルールの設定といった操作が、すべてAI経由でできるようになる。全部で17ツールが公開されており、「友だち追加されたら自動でタグを付けてステップ配信を開始する」といった一連のフローを、自然言語でClaude Codeに依頼するだけで構築できる。
これは実際に触ってみて驚いた。従来のLステップでは管理画面をポチポチ操作して設定していた作業が、「こういう配信フローを作って」の一言で完了する。最初は「さすがに自然言語だけでは無理だろう」と思っていたが、やってみるとちゃんと動く。この体験は、全機能がAPI公開されているOSSならではのものだ。
コスト比較
最後にコストの話をしておく。これが一番気になる人も多いだろう。
| 規模 | Lステップ | LINE Harness(Cloudflare) |
|---|---|---|
| 〜1,000友だち | 月額 約21,780円 | 0円 |
| 〜5,000友だち | 月額 約21,780円 | 0円(無料枠内) |
| 〜10,000友だち | 月額 約33,000円〜 | 約$10/月(約1,500円) |
5,000友だち以下なら、Cloudflare無料枠で完全に収まる。年間で約26万円の差が出る計算だ。この数字を見たとき、正直「もっと早く知りたかった」と思った。
もちろん、自分でデプロイ・運用する技術コストはかかる。ここは「エンジニアがチームにいるか」がLINE Harnessを選ぶかどうかの分岐点になる。
まとめ:LINE Harnessが向いている人・向いていない人
LINE Harnessが合うのは、チームにエンジニアがいる(または自分がエンジニアである)組織だ。Lステップの月額コストを削減したい、LINE配信をAPIやAIで自動化したい、複数アカウントを一元管理したい、BAN対策をしっかりやりたい。こうしたニーズがあるなら、試してみる価値は十分にある。
一方、サーバーの運用には一切関わりたくない、Cloudflareのアカウントを作ること自体に抵抗がある、手厚いサポートが付いた有料ツールのほうが安心。そういう方には、正直おすすめしにくい。Lステップには、管理画面のわかりやすさやサポート体制という明確な強みがある。
LINE Harnessは「Lステップの完全な代替」とまでは言い切れない。管理画面の洗練度やサポート体制では、有料サービスに分がある。ただ、「全機能がAPI公開」「AI連携が標準」「月額0円」という3つの強みは、特にエンジニアが運用に関わるチームにとっては圧倒的な魅力だ。
Lステップの月額に疑問を感じているなら、まずはテスト用アカウントで試してみることをおすすめする。デプロイ自体は、この記事の手順どおりにやれば30分もかからない。筆者もまだ検証段階だが、「これはいける」という手応えを感じている。
LINE Harnessの詳細はGitHubを参照。MITライセンスで公開されている。

